弁護士ブログ

9月入学について考える

2020.05.11

 緊急事態宣言により全国の学校が休校となっています。

 通常の入学式・始業式は4月上旬ですから,休校期間は1か月以上に及んでいます。そして緊急事態宣言が5月末まで延長される可能性が高いため,既に2か月の休校が見込まれています。

 学生にとっての2か月は大変大きいといえます。特に受験を控えた小学6年生,中学3年生,高校3年生にとっては受験までに履修範囲をカバーできない可能性があり,死活問題といえるでしょう。その中でも高校3年生は浪人生との関係では相当のハンディキャップになります。この問題はどうにかしなければなりません。

 現在検討されているのは,①緊急事態宣言解除後の残された期間で何とか履修する,②9月入学・始業に制度を変更する,③全員留年する,の3つです。

 緊急事態宣言が5月末に解除される可能性が高いことを前提とすると,③については論外だと思います。①については小・中学校のスケジュールがかなり厳しくなると思われますが,その点については特別措置で優先順位の低い履修範囲を削除するなどの手当は可能であると思います。少なくとも夏休みが全くないなどという状況にしてほしくはありません。あれだけ暑い夏の期間に子どもをフルで登校させたら亡くなる子どもが出ると思います。

 現在,最も熱い議論が交わされているのは②9月入学・始業への制度変更の可否ではないでしょうか。

 この点についての私の意見は,大学だけ9月入学・始業とする制度に変更し,小・中・高校については4月入学・始業のままにするというものです。

 小・中・高校を4月入学・始業のままにする理由は,現在の1学期⇒夏休み⇒2学期⇒冬休み⇒3学期という流れに学習ペース上,無理がないと思うからです。学習進度に差が出やすい1学期の早い時期にゴールデンウィークがあり,1学期終了後も長期の夏休みがあることで,遅れを取り戻す機会が充分に確保されています。この流れは学習進度にばらつきが出やすい小・中学校では有効であると思います。

 では,なぜ大学だけ9月入学・始業とすべきなのでしょうか。

 理由の1つ目は,世界的に9月入学・始業が主流であるということが挙げられます。海外から日本の大学に入学したい方,また日本から海外の大学に入学したい方にとって,日本の大学が4月入学であることは相当な不便になっています。そしてこの不便は日本の大学に海外から優秀な学生を呼び寄せることの障害になっています。世界の大学評価において日本の大学が相対的に低く評価されるファクターのひとつに「国際性」の指標がありますが,入学時期のズレは,この評価を下げる要因のひとつになっている可能性が高いと思います。世界の主流である9月入学とすることで海外の優秀な学生の受け入れが増加し,ひいては日本の大学の評価を高めることができる可能性があります。また日本から海外の大学に進学したい学生の利益にもなります。

 2つ目の理由は,大学入試期間の過酷な環境を解消する点にあります。現在の大学入試は1月中旬に1次試験が行われ,2月上旬から下旬にかけて私立大学の入試,2月下旬に国立大学前期試験が行われることになっています。このようなスケジュールの結果,毎年のように雪による開始時間の繰り下げが行われ,受験できない受験生もいます。また体調管理も大変困難な時期です。今年2月には既にコロナウイルスの感染拡大が始まっていたにもかかわらず,入学試験は通常どおり実施されました。何事もなかったかのように扱われていますが,感染した受験生は少なからずいたと思われますし,さらに酷い状況になっていたらどうするつもりだったのか,と思います。

 このような過酷な時期に入試を行うのではなく,4月から6月の温暖な時期に実施すれば,これらの不都合は解消されます。

 3つ目の理由は,学生に高校時代を充分に楽しんでほしいということがあります。先に述べたように,私は高校については4月入学・始業を維持すべきであると考えています。そうすると高校卒業後,大学に入学する9月まで間が空きますが,この空いた期間に入試を実施するということです。現在の制度では,高校3年の12月までに履修範囲を終えて1月には入試となってしまい,特に中高一貫でない公立高校のカリキュラム上,無理があるだけでなく,高校生活最後の文化祭や部活に集中できないスケジュールになっています。これでは学校の人間関係が最も熟した時期に受験勉強に専念しなければならないこととなり,味気ないと思いませんか?卒業の少し前までは学生生活を満喫できるようにすることは学校行事や部活動を含めた人間教育のためには良いのではないかと思います。

 以上の理由から,私は小・中・高校については4月入学とし,大学については9月入学とすることが理想であると考えます。

 この制度に対しては,大学卒業後の9月入社には無理がある,という意見があると思います。この点について私は,入社については4月を維持するという意見です。したがって,大学生は7月に大学を卒業した後,8月以降に就職活動を行い,翌年4月に入社することになります。現在の4月入学,4月入社の制度では,事実上,大学3年生の段階で事実上の就職活動を開始し,大学4年生の前期は講義を受講できません。またテレビ局に多いイメージですが,大学3年生の段階で事実上の内定(内々定?)を得ている学生がいるようで,大学3年生と4年生で既に会社の先輩後輩関係になってしまうということがあったようです。大学3年で就職活動を開始するには当然その準備を大学2年の頃から開始しているのであり,これでは大学でほとんど勉強していないに等しいといえます。特に大学4年の1年間はほとんど意味を感じません。このような本末転倒な状況を変えるために,大学4年間は勉学に集中させ,就職活動は卒業後に行うことが望ましいと思われます。このように時間に余裕を持つことで本当に自分の就きたい職業について考えさせ,就職後の短期離職率も下げることができるかもしれません。

 このような制度になると高校卒業後の半年間と大学卒業後の半年間の生活費が苦しくなるという指摘もあるとは思います。しかし大学については浪人する方,留年・休学する方も多く,医歯薬系が6年制であることを考えれば,決して非現実的な制度ではないと思います。生活が苦しい学生には給付型の奨学金を充実させることで解決を図るべきです。

 いずれにしろ,現在のカリキュラムは教育を受ける権利(憲法26条1項)が予定しているであろう教育効果を上げるためには明らかに無理があります。もう少し余裕を持った制度にできれば,教育を受けた学生の卒業後の人生が,より豊かなものになるのではないかと思います。

 「子どもを守れ」のかけ声だけが大きくなる昨今ですが,「子ども」のその後を見据えた制度設計についても議論されるべきではないでしょうか。

投稿者:河野邦広法律事務所

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