弁護士ブログ

臨時会の召集

2020.08.10

 憲法は一定の者を対象に憲法を尊重し擁護する義務を負わせています(99条)。

 その対象は天皇,摂政,国務大臣,国会議員,裁判官,その他の公務員です。

 同条文から内閣が憲法尊重擁護義務を負うことは明らかですから,内閣は憲法に定められた人権規定のみならず国の機構について定めた規定についても遵守しなければならないことになります。

 近時,野党が臨時会の召集を要求したのに対して,内閣が10月以降の召集を検討しているという報道がありました。10月以降の召集が遅きに失することは国民の誰もが思っていることでしょう。しかし遅すぎる召集時期が罷り通ってしまいそうなことも事実です。なぜこのようなことが起こるのでしょう。

 少しテクニカルな話になりますが,国会の召集権限は誰にあるのでしょうか。憲法は内閣の助言と承認により,天皇が国会を召集すると定めています(7条2号)。同条から国会の召集権限は内閣にあるとされています。そうすると臨時会の召集権限も内閣にあることになりますが,例外的に義務化される場合があります。それが臨時会の規定で,「いづれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば,内閣は,その召集を決定しなければならない」(53条後段)とされています。

 したがって今回のように国会から適法に臨時会の召集を要求された場合,内閣は臨時会の召集を決定しなければなりません。この点について安倍内閣は過去に2度,臨時会の召集を放置し,1度目は結局召集せず,2度目は放置した後,召集した日に衆議院を解散したとのことです。このように現政権は臨時会の召集について極端に消極的な性格を有しており,今回も同様の態度を採っています。

 このような事態が生じてしまうことの原因の1つは,憲法その他の法律が臨時会の召集について期限を設けていないことがあるといえます。国会議員は臨時会の開会日について指定する権限がありませんし,召集しないことについて法的ペナルティも規定されていないため,内閣は事実上,期限を延ばし放題になってしまうわけです。では期限を定める法改正をすればよいかというと,実効性(強制性)確保の点から疑問があります。

 召集決定の期限について学説は,相当な期間(長くて2,3週間)のうちに臨時会の召集を決定すべきであるとしています。これによれば今回の召集要求が遅くとも令和2年8月1日に行われたとすると同年8月下旬には召集を決定しなければならないことになりますが,決定される様子はありません。

 国民としては,臨時会が召集されない事態をどのように考えるべきなのでしょうか。

 重要なのは,臨時会を開く目的です。臨時会を開く目的の緊急性,重要性その他の事情により召集を決定するために必要な期間や召集時期も変化するでしょう。内閣はこれらの要素を検討しつつ速やかに召集時期を決定すべきと考えられます。

 そもそも憲法が臨時会の召集時期を内閣の裁量に委ねた理由は,内閣が国会を通じて国民の信任を受けていると推定されるからであると考えられます。このように内閣が国民の信任を受けていると推定されるからこそ,内閣は国会(その先にいる国民)の要求に答えなければなりません。国会が早期に臨時会の召集が必要であると要求するのであれば,これに誠実に答えなければなりません。現在の内閣の態度には国会の先にいる国民について誠実に考え,答えている様子が見受けられないように思われます。平時においては強弁と不作為でごまかせたとしても,有事に強弁と不作為は通用しません。有事の不作為は作為に勝る悪となり得ることは歴史が証明していると思われます。

 国民は臨時会の召集に関する内閣の態度からも,その内閣が真に国民のことを考えて行動しているかを判断することができるのではないでしょうか。

投稿者:河野邦広法律事務所

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2020.08.10

令和2年8月13日から同月16日までの期間、当事務所は休業とさせていただきます。

投稿者:河野邦広法律事務所

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