弁護士ブログ

物事の順序(3)

2020.02.28

 つい先ほどアップしたブログに書いた「要請」の件について,やはり法的拘束力等の問題が議論されているようです。

 結論としては「要請」に法的拘束力はなく,各自治体や学校(校長)の判断に委ねられるとのことです。

 予想通りと言えば予想通りであり,立法がない以上,この結論に誤りはないように思われます。

 しかしそうだとすると,この「要請」の性質は何なのかという問題は残ります。

 法的根拠がないことを内閣がなかば認めたようなものなので,この「要請」は法的に宙に浮いてしまいました。強いていうならば要望を伝える事実としての「リクエスト」と表現できそうですが,リクエストには応答(レスポンス)が伴うので,応答義務が想定されていない本件「要請」とは異なるように思われます。

 本件「要請」は名宛人が多数かつ特定も曖昧(法的根拠がないため)なので,事実としての「アナウンス」に類似し,究極的には「モノローグ(独り言)」に近づいていきます。

 このように考えると,一連の「要請」の件は,自治体や学校(校長)が内閣総理大臣の独り言に右往左往しているという構図で説明できるのではないでしょうか。

 このような構図は,法的根拠に基づかず,判断権者や責任の所在が曖昧という点で,現政権において語られてきた「忖度」に極めて似た構図であり,緊急時に現政権の本質が見えたということもいえそうです。

 また現政権の行動様式として,法のプロセスを無視・歪曲するというものもあります。行政を法律に基づかなければ活動できないようにしたのが現代の制度なのですが,現政権は,実現しようと思ったら法律に基づかないで,または都合の悪い法律の解釈をねじ曲げて実行してきたように見受けられます。最近では事実すらねじ曲げるようになっています。こういった行動は三権分立や議会制民主主義,憲法の理念等について理解されていない一部の方々にとっては,ある種の万能感を生み,痛快に写っていたのではないでしょうか。

 しかしそのような行動様式の限界が明確に見えてきました。しかもその限界が誰の目にも明らかになった今,国家は国民の生命を左右する局面に立たされてしまいました。皮肉のようですが,ここ数年間,誤った理解に基づいて運営された国政を冷静に振り返る良い機会と解釈することで少しは前向きになれるのではないでしょうか。

投稿者:河野邦広法律事務所

物事の順序(2)

2020.02.28

 前回のブログで物事の順序について書きましたが,書いている最中に内閣(内閣総理大臣?)が,コロナウイルスの感染防止のため,全国の小中学校,高校に臨時休校を要請したという報道がありました。この件について「苦渋の決断」などと勇ましく報道している媒体もありますが,その前に少し立ち止まって考えてほしいことがあります。

 そもそも今回の要請には法的根拠があるのでしょうか。あるとしたら何法でしょうか。ないとしたらこの要請の法的性質をどのように説明したらよいのでしょうか。さらに要請の法的性質が不明であるとしたら,この要請に法的拘束力はないことになりますから,結局,判断を全国の自治体、学校(または校長)に丸投げしたことになります。

 今は「政府の判断で」と言っていますが,責任が発生したら「自治体や各学校(校長)の自主的判断」と言い出しそうです。また臨時休校にしなければしないで何か言われそうです。校長も子どもも,保護者も困惑していることでしょう。

 このような「要請」が急に出てくること自体,物事の順序が誤っていたということだと思います。休校等の措置について何らかの拘束力を持たせる必要があったのであれば,立法が必要でした。法の内容や迅速性等の問題から,法案は内閣が提出することになるのでしょう。しかし今回は何らの立法措置が採られないまま,内閣(内閣総理大臣)の独り言のような「要請」が急に出てきてしまいました。この流れが立法を待てないほどに緊急事態であるということであれば,休校で済む状態ではなく,社会全体を外出禁止にするくらいの状態なのではないかと勘繰ってしまいます。実際,あれだけ働く電通の従業員5000人が出社していないのです。そのように考えると私たちは,とんでもなく危険な空間で生活させられているように思えます。このような事態になってしまったのも,物事の順序を誤ったからです。初めから必要な検査を実施して正確な統計数値を整えておくべきでした。そして統計数値にしたがって地域ごとに必要な措置を採ることができる立法をすべきでした。政府の初動に疑問を呈する識者は多く存在したので,結果論ではありません。

 今回の「要請」についてもう一つ気をつけなければならないのは,今回のような事態に対応する必要性を理由として憲法に緊急事態条項のような条文を設けるべきだと主張する人が出ていることです。結論から言って,今回のような事態であっても緊急事態条項は必要ありません。前記のとおり,本件は初動から適切に対処していれば現在のような事態にはならなかったはずでした。緊急事態条項は初動の不備を補うような制度ではありません。国民の生命の危機をも利用して内閣の権限を不当に強化しようとする方が存在することに現在の日本の異常性を感じざるを得ません。

投稿者:河野邦広法律事務所

物事の順序(1)

2020.02.27

「物事には順序がある」

 

 よく耳にする言葉です。親に言われた気もしますし,学校で言われた気もします。同じようなことを会社で言われた気もします。私の場合,弁護士になってからも言われたかもしれません。

 このように何回も言われる言葉ですが,何回も言われるのには理由があります。言われる私たちが物事の順序を守れていないのです。守れていないから何度も言われるわけです。

 人は物事に順序があることをわかっていながら順序立てて処理できないのです。

 またわかっていてもわざと物事の順序を守らないこともあります。

 最近の報道を見ていて,社会が物事の順序を守らない事案が散見されます。

 

1つ目はコロナウィルスの検査に関する報道です。

 報道によりますと,ダイヤモンド・プリンセス号の船内で作業に当たった職員についてウイルスの検査を行わなかったとのことです。驚くのはその理由で,「陽性者が多く出た場合に業務に影響するから」と報道されています。陽性者がいた場合,その職員を隔離せず,情報共有もしなければ他の職員が防御できず,感染が拡大します。感染が拡大したら,業務への影響は甚大になるでしょう。そんなことは簡単に想像できそうですが,それでも感染が拡大しない方向に賭けたということなのでしょうか。本末転倒も甚だしいといえます。

 

2つ目は検察官の定年延長問題です。

 そもそも検察官の定年年齢は,検察庁法22条で定められており,検事総長を除く検察官は63歳,検事総長は65歳です。内閣は63歳と定められている検察官の定年年齢について,国家公務員法81条の3を適用して延長するとしました。この点について解釈変更の可否・是非の問題のように論じられていますが,そもそも解釈レベルの問題以前に適用はできないように思われます。そのことは置いておくとして,内閣はなぜこの期に及んでこのような方法を採ったのでしょうか。一般論として検察官に定年延長が必要な事態があると認識していたのであれば法改正の方法を採るべきであり,解釈変更とする今回の方法は場当たり的に感じます。百歩譲って,カルロス・ゴーン氏の件が影響しているとして,解釈変更の方法を採るとしても,無理筋であると思います。そもそも内閣の主張によると,解釈変更前の検事総長候補の方では「公務の運営に著しい支障が生ずる」ということでなければなりません。そんな事態があり得るのでしょうか。この点についても説明が不足していると思われます。いずれにしろ本件の混乱は法改正によるべき順序を誤ったことにより生じたといえます。法改正が間に合わないなら順番通りの人事にすれば良いだけの話なのです。

 

3つ目は野党に対する批判についてです。

 主にインターネットにおいて,野党が「桜を見る会」や前記「検察官定年延長問題」について質問するからコロナウイルスの議論ができない,といった批判が見受けられます。しかしこの批判も順番を誤っていると言わざるを得ません。

 そもそも野党は少数派の立場から政権与党の政策を批判的に検討するのが責務です。政権与党は野党からの追及を受けるような隙を見せないように運営しなければなりません。「桜を見る会」についていえば資料を出して検討させて,問題がなければ年内に話はついていたはずです。また検察官定年延長問題については内閣発信の問題であり明らかに不当な方法を採っているので,与党を含む国会はこれを見過ごしてはなりません。そのように考えてみると,国民生活にほとんど影響がなく,規定通りで十分な検察官人事を敢えて捻じ曲げて論点を発生させ,コロナウイルスについての審議の時間を浪費させた内閣にこそ問題があるといえそうです。これも優先順位という意味で順序を間違えたということになると思います。

 このように現在の政権与党はこれまでに考えられなかったようなレベルで物事の順序を誤っているように見受けられます。コロナウイルスの問題についてもオリンピック開催が危ぶまれるというレベルで論じる方が見受けられますが,これも順序が誤っています。そのような問題ではなく,国民の生命がかかった問題として論じる必要があるでしょう。

 物事の順序の大切さが身に沁みる今日この頃です。

投稿者:河野邦広法律事務所

まずはお気軽にお電話を

ご自身では解決できないお悩みがございましたらさいたま市浦和区にある河野邦広法律事務所までまずはお気軽にご相談ください。

pagetop