弁護士ブログ

宣言する者とそれを聞く者(3)

2020.04.16

 令和2年4月7日,日本の7都府県を対象に緊急事態宣言が発令されました。

 緊急事態宣言の会見において首相は,感染者の爆発的な増加を回避できるかについて「すべては皆さんの行動にかかっています。」と述べました。

 発言の真意はわかりませんが,「すべて」という言葉に私は引っかかりを感じました。確かに私が新型コロナウイルス(以下「コロナ」といいます。)に感染するか否かを,すべて私の責任にされ得ることについては納得できなくても特に反論しません。しかし感染拡大について私を含むすべての国民の責任にされることは,首相が前提としているであろう「責任」の意味においては,あり得ないと言い切れます。

 これは現政権の特徴でもありますが,官僚人事を掌握して政策を官邸の恣にしておきながら,やるべきでないことをやり,またはやるべきことをやらないで,失敗すると官僚機構や国民の一部に責任を押しつけてきました。そして今回は全国民に責任を押しつけてきました。そもそも現在の国政の構造上,政策の主導権は政権与党(特に官邸)にあるのですから,その責任も「すべて」政権与党(特に官邸)が負うべきです。

 そもそもコロナの感染拡大が頻繁に報じられるようになったダイアモンドプリンセス号の件を報道機関が一生懸命報道していた時,それを一番軽視していたのは政権与党でした。国会では与党議員が「クルーズ船の感染者数を国内感染者にカウントしている。このような虚偽の報道をする報道機関には罰則が必要だ。」などと,今考えればとんでもなく的外れな発言をしていました。そんなことをしている間に政権与党は対策を講じることができたはずです。国会の議席の3分の2を有していれば憲法上,法案を通すことは難しくありません。議論が必要かもしれませんが,これまでさんざん野党の要求を突っぱねてきた政権与党が緊急事態になってから議論の必要性を殊更に持ち出すことは説得力がありません。したがってコロナの感染拡大について事態を軽視し,対応を怠ったのは立法その他の措置を採らなかった政権与党です。よって感染拡大の責任は政権与党が取るべきです。

 また感染拡大が予想より小さかった場合でも,これだけ対策が後手に回り,責任だけは前もって国民に押しつけるような政権及びこれを支持する与党は責任を負うべき立場にあります。

 もっとも国民の責任の取り方がないわけではありません。間接民主制を採用する日本においては,国民が責任を取るためには主権の行使によるしかありません。つまり今回の危機にあたって怠慢・能力不足を露呈した国会議員を選挙で選ばないこと,それが国民の責任の取り方なのです。

投稿者:河野邦広法律事務所

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