弁護士ブログ

彷徨う女子受験生

2022.02.22

 国立大学の前期日程を数日後に控え,国立大学受験生の方々は最後の準備に入っているかと思います。私大進学が決まっている方は,ほっとしていたり,好きな本を読んだりしている方が多いかも知れません。約2週間後には大半の受験生の結果が決まることになります。

 最近では漫画等の影響もあり,中学受験が増加するなど,日本における受験熱は高まる一方のように思えます。Youtubeでも東大生や京大生またはそれらの卒業生が多くの動画をアップしている状態です。学習塾の動画も目立ちます。

 しかし受験熱が高まる一方で,受験制度の歪みや受験による子どもの精神的苦痛についてはあまりケアされていないように思われます。

 受験制度の歪みでいえば,数年前に医学部受験における女子差別が話題になりました。この点については是正され,女子合格率が上がったとの報道がありましたが,想像していたほどの変化は感じられません。他方で毎年のように報道されるのが,東大における学生の男女比です。現在における女子の比率は20%程度らしいのですが,私が在学していた頃に比べると増加したようです。私自身は多様性を重視するなどと言いながら,無理をしてでも男女比を半々にするという指針はおかしいと思っていますが,心から進学を希望する学生のためということで,この点について考えました。

 現在の政策では,地方の女子生徒が東京の大学に進学することを実家の親が反対するという構図を前提として,女子だけに安全で綺麗で便利な寮を整備したり,金銭を支給したりといったことが行われているようです。しかし,このような政策は東大合格者の出身校等のデータを無視した的外れな政策のように思われます。現在の東大合格者の多くは都心に近い中高一貫校またはトップ公立校出身者で占められています。地方については大都市の進学校出身者がほとんどであり,性別関係なく東大への進学は狭き門になっています。こういったデータから考えますと,前記のような政策を講じたとしても女子生徒が東大受験をする動機にもならず,受験する女子生徒が増えたとしても男女比を半々にするにはほど遠いことがわかるはずです。

 ではどうしたらよいのでしょうか。

 近年,私の同期や同年代の知人の子どもが受験をする話を聞くことが増えていますが,その度に思うのは,女子の中学・高校受験が大変だ,ということです。誤解を恐れずに表現すれば,優秀なカテゴリーに含まれるはずの女子が能力に見合う学校教育を受けられていない状態になっていると思われます。原因は複数あると思うのですが,トップ層についていえば,中高一貫の女子校が少ないということがいえると思います。男子については開成や灘を初めとする中高一貫校が都心に限らず地方にもたくさんありますが,女子については都心でも多くはなく,地方にはほとんどないのではないかと思われます。そのため都心の中学受験において女子受験生が一定のラインより下に入ってしまうと,あるべきレベルよりも相当低いレベルの学校に入学しなければならないことになります。その結果,トップ層より少し低いレベルの共学校では同じ学校であるにもかかわらず女子の偏差値が高い,といった現象が発生します。女子の中学受験を経験した親御さんにはご理解いただけると思います。こういった現象が下に向かって順繰りに発生していくと,中堅校あたりで女子の方が大幅に合格最低点が高いという現象になります。報道では中堅校で発生する当該現象を採り上げて男女差別と非難し,中堅校における男女の定員を取り払うべきとの意見が出ています。しかし,この意見は受験制度の歪みの本質をとらえていないとしかいいようがありません。

 前述のように,現在における受験制度の歪みは,上位層における中高一貫校の女子の定員が少なすぎることであり,中堅校における合格点の差はその影響にすぎません。つまり中堅校に入学する女子を増やしたところで歪みは改善せず,むしろ歪みが固定され,歪みを促進するおそれすらあります。この歪みを本質的に是正するためには特に中学におけるトップ層の女子の入学者を増加させる必要があります。つまり上位層における中高一貫の女子校を増やす必要があるわけです。

 これが実現できれば前記中堅校における差はある程度解消され,東大受験をする女子も効果的に増加するはずです。

 国公立の女子校を新たに作ることは平等権との関係で困難であるため,私立に期待するほかありません。国が本気で女子の進学について問題を解決したいのであれば,補助金でも特区でも駆使して私立の中高一貫女子校を増やし,並行して既存の中高一貫の女子校をレベルアップすることも考えるべきではないでしょうか。

 色々と述べましたが,このトピックについては持っておいていただきたい視点があります。受験における性別に基づく差異については平等の視点から語られることが多いですが,単純な性別間の平等だけが問題なのではないということです。つまり,前記のように現代における受験制度の歪みの本質は,ある能力を有している女子学生が希望する水準の教育を受けられていない,ということです。憲法は教育を受ける権利を保障していますが,「その能力に応じて,ひとしく教育を受ける権利を有する。」と規定しています。前記の受験制度の歪みは同規定の趣旨に反する可能性があり,一定の女子学生の学習権が侵害されていると評価し得ることついても考えていただきたいと思います。また女子学生に限らず,男子学生の中にも能力に見合った教育を受けられない子らが存在し,その子らに対する配慮も必要であることを忘れないでいただきたいと思います。

投稿者:河野邦広法律事務所

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