2020.10.30
現在,国会では日本学術会議の任命拒否の件が問題となっています。
この問題は当初,日本学術会議から推薦を受けた会員について内閣総理大臣が任命拒否できるかが論点になっていました。そこで日本学術会議法7条2項を見てみると「会員は,第17条の規定による推薦に基づいて,内閣総理大臣が任命する。」と規定されています。そして同条項の解釈については法改正当時,中曽根元首相が明確に「政府が行うのは形式的任命にすぎない。」と答弁しています。そうすると議論をするまでもなく,内閣総理大臣には任命を拒否する権利はないことになります。
本件でも任命拒否は違法ということで,首相が任命しなおせば話が終わったと思われます。しかし首相は違法性を認めなかったため,任命拒否の理由を答えさせられることになってしまいました。ここで首相は引き際を誤った可能性があります。
任命拒否の理由について首相は当初,「総合的,俯瞰的」という曖昧模糊とした理由を述べていました。しかしその後首相は「名簿を全部は見ていない」と言い出しました。そうなると「総合的,俯瞰的」という言葉と矛盾が生じます。そもそも「総合的」とは「全体をまとめる」という意味合いであり,「俯瞰的」とは「高い視点から全体的,大局的に考える」という意味です。つまり「総合的,俯瞰的」に判断するためには全体を見渡さなければならないはずです。それにもかかわらず名簿の全体を見ていないということでは「総合的,俯瞰的」に判断できるはずがありません。このような矛盾が生じてしまったため,首相は任命拒否の「本当の理由」を探られる結果になりました。ここで首相は再び引き際を誤った可能性があります。
現在では任命拒否の理由について「大学のバランスが悪い,旧帝国大学が多い,若い研究者が少ない」などの理由を述べているようです。しかし105人のうち6人の任命を拒否したところで大学や年齢のバランスが取れるのでしょうか。また任命拒否された6名の教授の所属は東大2名,京大,東京慈恵会医科大,早大,立命館大とのことです。確かに旧帝大が3名含まれていますが,これでバランスを補正するほどの作用があるとは思えません。むしろ旧帝大以外と同数を任命拒否してしまうと効果が相殺されてしまいます。また若い研究者が少ないと言いますが,日本学術会議法10条が各項で会員の要件として「優れた研究又は業績がある会員」と規定していることの帰結であると言わざるを得ません。若い研究者を増やしたいのであれば要件の変更を検討するのが筋です。いずれにしろ首相はしゃべればしゃべるほど根拠法や自己の判断・答弁と矛盾が生じる状態に陥ってしまっているように見受けられます。
このようになってしまった原因は,初期の段階で無理筋と見極めることができず,その場しのぎの答弁を押し通してしまったことにあると思われます。
訴訟などでもあてはまりますが,先の見通しが不明である場合,また自己の不利が明確である場合,引く勇気,撤退する勇気も時には必要です。強弁することで,後になって自分の首を絞めることになることはありがちです。
似たようなことが大阪市でも起こっているようなので,項を改めて述べたいと思います。
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