弁護士ブログ

許さない人(1)

2020.03.06

 最近,「許さない人」が増えていませんか。

 例えば昨年のニュースで,未成年のプロ野球選手が横断歩道以外の場所を横断したとという内容が報じられていました。もちろん厳密な意味では横断しない方がいいのですが,全国的に報じるようなことでしょうか。一般人はお咎めなしでプロ野球選手だと悪人のように報道されるとなると,もはやプロ野球選手差別とすら思ってしまいます。これくらいは許しても良いのではないでしょうか。私のこのような発言も「法を遵守すべき弁護士が道交法違反を慫慂した」と叩かれてしまうのかも知れません。なお弁護士は法を犯してしまった人を弁護する仕事も多いことは忘れないでいただきたいと思います。弁護士は他人の許し(赦し)を乞う仕事でもあるのです。

 他方,インターネットでもちょっとしたルール違反などを報告し,時には撮影までして拡散し,よってたかって違反者を叩いているのを見かけます。そしてこれがエスカレートして,ルール違反だけでなくモラル違反・マナー違反・エチケット違反へと対象が拡大します。酷いときには何も違反していないのに,「容姿がいまいち」とか,「服と靴の組み合わせが許せない」,酷いときには「お弁当がまずそう」,などと八つ当たりのような批判をしているようなものも見かけます。

 最近では高い社会的地位にあった人が刑事手続において逮捕・勾留されなかったりすると,その人を「上級国民」と呼んで特別扱いされているように書き立てたりもしています。確かに,勾留の判断において高い社会的地位にある人であれば今ある地位を捨てて逃げたりしないであろうということで,逃亡のおそれが低いと評価され,勾留の必要が無い方向で判断されることはあり得ます。しかし社会的地位を理由に特別扱いを受けているとまでは断定できないのではないでしょうか。

 このように,あるカテゴリーにある者を「上級国民」と区分けして特殊に評価する行為は,自分を「上級国民」ではないと考える方々が「上級国民」を妬んだり,自己の不満を「上級国民」にぶつけて鬱憤を晴らすという構図に見えます。そのような構図・行為の裏には,「上級国民」が自分とは異なって苦労や悩みの少ない人生を送っているに決まっている,という漠然とした前提が隠れているように思われます。しかし昨年,「上級国民」と評価されるであろう方が苦悩の末に自分の子を殺害した事件が発生しました。このような事件を見ると「上級国民」と評価されて攻撃対象とされてしまう方も,一般の方と同様かそれ以上の悩みを抱えて生きていたことがわかります。その事実を認識したとき,「上級国民」のレッテルを貼っていた方々の心はどのように動くのでしょうか。自分が間違った前提の上に立って他人を批判したり主張していた,と反省することが自然で,かつ多くの方はそのように思うのではないでしょうか。それでも「上級国民,ざまあみろ」と思う方は倫理や善悪の問題以前に理屈や認識の構造を組み立て直す必要があるかもしれません。

 なお私は,他人を許せないタイプの発言者が,この「ざまあみろ」タイプと親和性があるのではないかと思っています。

(つづく)

投稿者:河野邦広法律事務所

まずはお気軽にお電話を

ご自身では解決できないお悩みがございましたらさいたま市浦和区にある河野邦広法律事務所までまずはお気軽にご相談ください。

pagetop