弁護士ブログ

何か以前の問題

2021.07.22

 少し前の記事に,オリンピック開催によるコロナウイルスの感染拡大のおそれについて書きました。現状,東京都には緊急事態宣言が出されているにもかかわらず,感染者数が2000人に迫る勢いで増加しています。ここまでは前の記事で懸念していたことが現実化したといったところです。

 しかしながら近時の報道では感染者数よりも開会式の人事が熱い話題になっています。

 2021年7月15日に開会式の演出等を担当するクリエイターチームが発表されたのですが,その中の作曲担当者である小山田圭吾氏が,過去に雑誌の取材で自己が障害を持つクラスメートに虐待のようなことをしたことを自慢気に語っていたことが問題視されました。一度は組織委員会が「許してもらえる」と考えて続投を発表しましたが,世論の反発が強く,小山田氏が辞任することになりました。雑誌に掲載された同氏の行動は常軌を逸しており,被害者に対する謝罪等も長年なかったようなので,今回問題視されて辞任となった流れは当然といえば当然かもしれません。ただ不思議だったのは,同氏のそのような話はインターネットを検索すればヒットしてしまうくらいには知られた話であり,任命の際に少し調べて本人に確認すれば,少なくともこのようなことにはならなかったのではないかと思われる点です。そんなことも調べないで任命したのか,または知っていながら問題が無いと考えたのか,組織委員会が「許してもらえる」と考えたと発言していることから,後者の可能性もありそうです。いずれにしろ「何をやっているんだ。」と言われても仕方がない杜撰さであると思われます。

 また組織委員会は同氏の担当部分を開会式では使用しないと表明していますが,担当部分の尺は4分とのことであり,他の演出と整合させながら数日間で新たなものができるのか,甚だ疑問です。

 話はこれで終わらず,今度はディレクターを務める小林賢太郎氏が過去にホロコーストを揶揄するかのような台詞を入れていたということで問題になりました。こちらの方は問題になった翌日くらいに組織委員会が小林氏を解任しました。小山田氏のときには留任したにもかかわらず,小林氏については即座に解任となりました。この件については問題とされている台詞がコントの一部であることや,テレビ番組などではなくファンが見に来るようなライブにおいて演じられたようなので,組織委員会が見落としてしまうことはあり得たかもしれません。実際,私はこのことについて知りませんでした。ただ疑問が残るのは,組織委員会が当該台詞について本質的な問題点を説明できる程度に理解した上で解任したのか,という点です。小山田氏の際には「許される」と考え,小林氏については「許されない」と考えたのはなぜでしょう。

 小林氏については開会式の演出全体に関わっているため,小林氏が関与しているイメージを払拭するためには開会式の演出自体を取りやめるしかありません。

 開会式は明日です。

 開会式はどうなるのでしょうか。

 そして開会式を見た世界の人々はどのような反応を見せるのでしょうか。

 今回の一連の辞任,解任劇で明らかになったことは,森喜朗氏に始まり,佐々木宏氏,小山田氏,小林氏のような国家レベルの仕事を任される層の方々が世界標準の人権意識を持ち合わせていなかったということではないでしょうか。日本国内では権威で押し通せても海外では通用しないということだと思います。今回は国内からの問題提起で動き出しましたが,オリンピックが関係しなかったらスルーされていたのかもしれません。そういった意味では,国内において問題視すべき差別等をスルーせず,人権意識を培っていく必要があるのではないでしょうか。

投稿者:河野邦広法律事務所

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