弁護士ブログ

物事の順序(2)

2020.02.28

 前回のブログで物事の順序について書きましたが,書いている最中に内閣(内閣総理大臣?)が,コロナウイルスの感染防止のため,全国の小中学校,高校に臨時休校を要請したという報道がありました。この件について「苦渋の決断」などと勇ましく報道している媒体もありますが,その前に少し立ち止まって考えてほしいことがあります。

 そもそも今回の要請には法的根拠があるのでしょうか。あるとしたら何法でしょうか。ないとしたらこの要請の法的性質をどのように説明したらよいのでしょうか。さらに要請の法的性質が不明であるとしたら,この要請に法的拘束力はないことになりますから,結局,判断を全国の自治体、学校(または校長)に丸投げしたことになります。

 今は「政府の判断で」と言っていますが,責任が発生したら「自治体や各学校(校長)の自主的判断」と言い出しそうです。また臨時休校にしなければしないで何か言われそうです。校長も子どもも,保護者も困惑していることでしょう。

 このような「要請」が急に出てくること自体,物事の順序が誤っていたということだと思います。休校等の措置について何らかの拘束力を持たせる必要があったのであれば,立法が必要でした。法の内容や迅速性等の問題から,法案は内閣が提出することになるのでしょう。しかし今回は何らの立法措置が採られないまま,内閣(内閣総理大臣)の独り言のような「要請」が急に出てきてしまいました。この流れが立法を待てないほどに緊急事態であるということであれば,休校で済む状態ではなく,社会全体を外出禁止にするくらいの状態なのではないかと勘繰ってしまいます。実際,あれだけ働く電通の従業員5000人が出社していないのです。そのように考えると私たちは,とんでもなく危険な空間で生活させられているように思えます。このような事態になってしまったのも,物事の順序を誤ったからです。初めから必要な検査を実施して正確な統計数値を整えておくべきでした。そして統計数値にしたがって地域ごとに必要な措置を採ることができる立法をすべきでした。政府の初動に疑問を呈する識者は多く存在したので,結果論ではありません。

 今回の「要請」についてもう一つ気をつけなければならないのは,今回のような事態に対応する必要性を理由として憲法に緊急事態条項のような条文を設けるべきだと主張する人が出ていることです。結論から言って,今回のような事態であっても緊急事態条項は必要ありません。前記のとおり,本件は初動から適切に対処していれば現在のような事態にはならなかったはずでした。緊急事態条項は初動の不備を補うような制度ではありません。国民の生命の危機をも利用して内閣の権限を不当に強化しようとする方が存在することに現在の日本の異常性を感じざるを得ません。

投稿者:河野邦広法律事務所

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