弁護士ブログ

健全な議論

2021.05.12

 日本におけるコロナウイルスの感染はなかなか収まる気配を見せず,むしろ変異株による感染拡大が懸念されています。そのような状況の中でオリンピックを開催することができるのか,という疑問が抱かれつつあるように感じられます。

 私は東京オリンピックについて招致段階では反対でした。東日本大震災その他の災害によって復興の途中にある方々が多くいらっしゃる中で,復興のために充分な支出をせずオリンピックに支出をするのはおかしいのではないかと思っていました。

 その後,東京での開催が決まったため,オリンピックを開催することに対する疑問が一度は消えてしまいましたが,コロナウイルスの感染が拡大するのを見ていて,その疑問が再び頭をもたげてきました。開催に反対ということではないのですが,開催するのであれば国民に対する充分な説明が必要ではないかと思います。

 オリンピック開催については主にインターネット上で賛否の対立が激しくなっているように思いますが,いくつか気になることがあります。それはオリンピックの開催に反対する方々に対して「左翼」などのレッテルを貼る意見が見受けられることです。オリンピック開催の賛否に政治的な偏りはあまりないと思います。極端な話,与党の国会議員の全員が開催に賛成しているとも思えません。上記のレッテルは最近特に増加してきた不健全な議論の方法です。その方法は,自分にとって都合の悪い意見に対して「左翼」とか「日本人ではない」といったことを述べて政治的に中立な方々や日本人であることをアイデンティティにしている方々に悪印象を与え,距離を取らせようとするものです。そもそも議論において論点と関係の無い立場や感情を交えること自体が非論理的であり妥当ではないのですが,twitter等で議論をしている方々はそこまで厳密に考えておらず,思考する時間も短いため,無意識にそのような妥当でない思考をしてしまうようです。このような不健全な議論(議論とすら呼べないもの)が積み重なって現在の世論のようなものが形成されているのです。

 もうひとつ気になることは,ネット上の議論に参加する方が流動的であることを差し引いても,論調に一貫性がない,整合性がない,ということです。例えばコロナウイルスに関して言えば,医療従事者に感謝をしようという論調であり,これに反対する論調はあまり見受けられません。そして現在,医療従事者は医療崩壊の懸念からオリンピックを開催して欲しくないと言っています。医療従事者に感謝をするのであれば,オリンピックを開催しない方向に議論が進むはずです。しかし現在ネット上で目立つ(威勢が良い)論調は,オリンピックを開催する方向性です。酷い言い回しでは「この程度の感染状況でオリンピックを中止したら世界の笑いものになる。」といったものもあるようです。医療従事者に感謝をしようと考えた方が,このような意見を読んだ場合,酷い意見だと考えるのが普通だと思うのですが,いかがでしょうか。

 以下,オリンピックに限らず,私が疑問に感じ,または他の方々がどのように考えているか知りたいことを列挙します。

1  感染拡大防止を理由として外国人の入国を制限することとオリンピックを開催することの整合性は取れているか。

2  日本国内の感染者数が欧米に比して低いからといってオリンピックを開催しても大丈夫であるということになるのか。前記1との関連も含む。

3  東京オリンピックの開催を当然かのように述べている方々は,2022年の冬期オリンピック(北京)についても当然,開催すべきであり,日本も選手団を派遣するのが当然であると考えているのか。

4  東京オリンピックまで約2か月となり,開催の方向で政府が動いているにもかかわらず,オリンピックのスポンサーCMや関連CMが流れていないのはなぜか。

5  大阪の感染状況を見て,これでも財政効率化等のために病院等の合併を進めることが適切か。

6  飲食店の営業を禁止することで感染拡大防止の効果が得られるのか(飲食店で飲食をしない客はどのような行動を採ると想定しているのか)。

7  主な感染経路が通勤電車である可能性をなぜ検討すらしないのか。

8  スーパーコンピューター富岳による飛沫感染のシミュレーションはよく見かけるが,富岳による感染者数のシミュレーション結果はないのか。

 これらが健全な議論に資するかはわからないが,少なくとも考えてみていただきたい事項であると思います。

投稿者:河野邦広法律事務所

後を向いて

2021.05.07

 2021年5月7日,緊急事態宣言が延長されたと報道されました。

 思い返せば昨年の同時期,日本は緊急事態宣言の真っ只中でした。当時は必要最小限の買い物や仕事を除いて家にこもっていた方が多いように思います。当時(5月7日)の日本における1日あたりの感染者数(PCR検査陽性者数)は97名とのことです。昨年,1回目の緊急事態宣言が全国的に解除されたのが2020年5月25日で,この日の1日あたりの感染者数は20名とのことです。これは日本全体の数字です。

 正直なことを述べれば,当時の私は感染がこのまま終息に向かうものだと信じていました。

 昨年3月31日の記事でも述べたとおり,私は政府がオリンピックを開催するため,2020年9月までに何としても感染者数を0に近い数字に持って行く政策を打つと考えていました。そのために私権制限等が議論されるだろうとも思っていました。しかし実際には終息のために政策を引き締めるべき7月にGoToキャンペーンが開始され,その流れで年末年始には1日あたり7844人もの感染者数を出すことになってしまいました。その後の経過は皆さんもご存じのとおりです。

 一度は終息に向かったはずの感染が再び爆発してしまったのはなぜでしょう。前記のように2020年5月25日の時点における感染者数が真実であれば,その20人及び当時の感染者が感染源となって感染が拡大したということは考えにくいです。やはり1つはPCR検査を絞りすぎて感染の実態を把握していなかったということでしょう。このことは当時のブログにも書きました。この点については失政を覆い隠すかのように否定するデータが報道されていました。つまり日本は中国由来のコロナウイルスについては封じ込め,流行したのはヨーロッパの変異株であると。そうであるとすれば実質的には新種のウイルスが国外から流入したということですから,入国政策が誤っていたということです。しかし国民は入国に関して気をつけようがありません。つまり国民は国の失政により無用の自粛を強いられたということなのです。こういった政策評価は早期に行われるべきであると思います。もちろん,失政ではないという意見やそれを裏付けるデータが出るでしょう。むしろ失政でない客観的根拠があるなら検討資料として開示すべきなのです。ないなら失政です。政策評価やそれに基づく議論もせず,データも出さずに「失敗していない」,「前を向こう」と言い続けているのが現在の政権と一部の首長です。

 私はコロナウイルスに関する現政権と一部の首長のやり方を見ていて疲れ切ってしまいました。そして政策に関してはもう「前を向こう。」などとは言わないことにしました。これからは「振り返ろう。そして正しく評価しよう。」と言い続けたいと思います。

投稿者:河野邦広法律事務所

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